年の瀬の晩です
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。

  

この冬は暖冬だという気象予報士のお兄さんたちの言が
時々不意打ちぽく襲い来る寒波に翻弄されつつも
何とか“当たり”で落ち着きそうなほど、
クリスマスの前と同じくらい お正月も暖かくなりそうだとのことで。
この一年もいろんなことがありましたね、
自然も猛威を振るったし国際的にはテロも横行、
国内だけに目を向けても、欧米に引けを取らないような凄惨な事件もありましたねなんて、
今年を振り返る番組でMCの方が感慨深げに眉をしかめていらしたけれど。
忘れちゃあいけない、まだ“今年”は終わってはなくて。
手っ取り早く現金欲しさのコンビニ強盗や 八つ当たりっぽい放火なんていう
理不尽な犯罪だってまだまだ警戒せねばならないし、
冬ならではの深みのある闇の中に身をひそめ、
よからぬことを想う輩が微妙に若年層に増える時期でもあって。

 「ったく、偉そうにしやがってよ。」
 「だよな。ちょっと2つ3つ年上なだけじゃんか。」

冬休みのアルバイト先、小遣い稼ぎにと務め始めたはいいけれど、
先輩格のお兄さんから兄貴風を吹かされの、失態を叱られのしたのが腹に据え兼ねたらしい、
背丈こそ高くて肩幅もあるが、
ニキビの跡も目立つ、いかにも青々しい面差しの青年が二人ほど。
着ならしたスカジャンやライダージャケットのポッケに手を突っ込み、
帰宅途中の街灯の下で不平をたらたらとこぼしておいで。
家に帰っても待つ人がいないのか、
それとも家族と顔を合わせるのは詰まらないと思うクチなのか。
何やら手に持ちカチャカチャと時折鳴らしつつ、
実のない話をグダグダと続けている様子で。

 「そういやここの近くだってよ、あいつのアパート。」
 「何でそんなもん知ってんだ?」

遅番で店に行く途中で、早番だった奴が帰ってくのを見かけてよ。
へ〜。で、どこなんだそれ?と そんな風に話が進み、
寒さしのぎに飲んでた缶コーヒー、
すっかりと冷たくなったのをぽいとそこいらの茂みへ突っ込むと、二人そろって歩き出す。

 「丁度むしゃくしゃしてたんだ、そのアパートに一筆書きでもしてやっか♪」
 「やんべやんべ♪」

彼らが先程から手に持ってカチャカチャと振っていたのは、
どうやら塗装用のスプレー缶であるようで。
面白くないことがあると、
気晴らしにどこなと落書きをして回っているらしいのが伺える。
店舗が連なる大通り沿いでは防犯カメラが設置されててやばいかもだが、
こんな住宅街ではそれもなかろと警戒する気もないようで。
そんな悪知恵まで回る輩であるところなぞから察しても、
すでによそで味を占めてもいる模様。
何が可笑しいか夜中だというに時々高笑いしつつ、
目串を差した方へと夜道を歩んでいた彼らだったが、

 「…んん?」
 「? どうした?」

片やが立ち止まったのは、何かが遠くに聞こえたせい。
やばい所業に出かけるからという、それも勝手な用心からのこと、
酒をあおってまではないらしく。
人通りのない静かな夜道のその向こうで
かすかに響いた何かの声を
しっかと聞きつけたらしく。
誰か来るぞと身を固くして、
街灯の光が届かない、細道の側へと辻をやや戻る。
何だどうしたと訊いた側にも、ややもするとその物音は聞こえてきだして、

 …の用心〜、マッチ一本 火事の元、と

夜陰の中へ、伸び伸びとしたお声がよく通り、
ああこれは…と、善男善女へのみならず、怪しい輩へも警戒をい抱かせる。
どうやらこのご町内では夜回り当番が警戒にと街路を回っているようで、
怪しいのはどっちだか、チッしょうがねぇなと、
面倒なことになったと言わんばかりに顔をしかめた二人が
息を潜めてやり過ごそうとしておれば。
夜回りのお当番の声はどんどんと近づいて来て、

 「…なんか変じゃねぇか?」
 「うん。俺もそう思った。」

独りで回っているものではないらしく、
声は複数で、しかも結構よく通り、
こういう立場で言うことじゃあないが、そこには問題もないと思う。
ただ、掛け声の合間に聞こえるのが、こういう夜回りに付きものの拍子木の音じゃない。
冴えてカチカチと遠くまで響くあの音じゃあなく、
ちょっぴりやわらかな耳ざわりの、トントコトンという…

 “太鼓、か?”

何でだろう、此処のご町内の伝統か?、
いやいやそんなん訊いたことないぞと。
くどいようだが自分たちの側だって十分怪しいというのに、
それはすっかりと棚に上げての、
声は出さずの目配せだけで、怪しくないか?という意の疎通を交わしておれば。
微妙な取り合わせの夜回りはどんどんと間近までへと接近しておいでで。
向こうの方も街灯の真下というのへ安心したものか、
足取りを止めると掛け声も途切れて、その代わりのように小声での会話を始めた模様。

 「やっぱりおかしいよ、ヘイさん。」
 「そうですか?」

拍子木の方がやっぱりいいって、
太鼓じゃああんまり遠くまで響いてないよな気がするしと。
他でもない演者たちにもそんな違和感はあったらしいが、

 「だって私、リハーサルの時に指を挟んでしまったんですもの。」
 「だから、じゃあアタシが打ちますからって言いましたのに。」

どうやら今宵のお当番はうら若きお嬢さんたちであるらしく、
近所迷惑にならぬようにと低められたそのお声は、だが、少し高めの声な気がする。

  ……って、今更白々しいでしょうか。(笑)

日ごろ通っておいでの女学園のお膝元にあたるご町内で、
冬の長い夜の警戒にと夜回りのお当番があると聞き、
地元民である林田平八さんだけに行かせるとどんな警戒態勢で見廻るのやらと、
微妙に案じたらしいのが草野さんちのご令嬢。
寒空に物騒なと案じないところが、人柄をようよう知っておればの順番というもので、(おいおい)
アタシもいきますと手を上げたところ、
じゃあ俺もと三木さんちの久蔵さんも手を上げて、
いつもの仲良し三人娘で夜のお外へと繰り出したのだが、

 「こんな太鼓がよくありましたね。」

さほど五月蠅くはなく、
だがだが太鼓にしては結構遠くまで通る音色というチョイスはなかなかのもの。
そこを感心したお嬢さんが、お隣に立つ太鼓当番の金髪のお友達の鉢巻きを直して差し上げる。
手を掛けられるのが嬉しいか、凛々しい造作の面立ちをやや柔らかくほころばせたお嬢さんが、
照れくさそうにすくめた細い肩は…何でだか仰々しい羽織にくるまれており、

 「それにこの衣装も。
  もしかしてゴロさんのコレクションですか?」

 「何を仰せか、この時期の夜回りといや、この恰好でしょう?」

どこまで本気か、むんと柔和そうなお顔を
わざとらしくも引き締めて見せたひなげしさんもお揃いの、
黒っぽい陣羽織に綿入りの袷と袴を着、
脛を紐で巻き上げられた具足姿という、
特徴ありすぎの和装の武装で身を固めておいでの彼女らなのへ、

 「…。」

強いて言えば“なんでだ?”と、落書き犯の輩もまた、
判じ物みたいな恰好のお嬢さんたちなのへと目を丸くしておいで。
どう見たって“忠臣蔵 討ち入りの図”という衣装で揃えているお三方であり、

 「でも、討ち入りの日はとうに過ぎてますよ?」
 「え? 一晩だけのお祭りなんですか?」

さすがはアメリカ育ちで、冬場ずっと取り上げる演目だとでも思っていたか、
白百合さんからの今更の指摘へ “え〜?”と意外そうなお声を上げた平八だったが、

 「でもでも、成敗には打ってつけの装備だと思いませんか?」

ふふふーと笑って房の付いた采配を持った手をすっと前へと伸ばして見せれば、

 「……。(頷)」

どうやら陣太鼓だったらしい、紐で提げて持ってたそれを、
コトンと足元へ静かに置いた紅ばらさんが、
白い手を覆う甲当てが 武骨さで可憐さを引き立てている絶妙な見栄えも振り飛ばし、
撥の代わりにとその手へ振り出したのが、お馴染みの特殊警棒だったりして。

  さて、ここで問題です。(おいおいおい)

これもまた怪しい輩に油断を誘うための作戦か、
それとも誰の目もなかろう夜中だからこそのお遊びか。
バレエの公演でコスプレには慣れもある久蔵殿にしても、
ここまで凝ったそれは初めてだったろう装備をものともしないで、
冴えた夜陰の空気の中、本人こそが鋭い木枯らしのように翔っていっての一刀両断。
少し先の駅前ですでに被害が出かかっていた落書き犯を
見事取っ捕まえた捕り物騒ぎの取っ掛かり。
見舞われた怪しい二人にはいいお灸になったか、
いやいや やりすぎの悪夢となったものか。
どっちにしたって、突き出された所轄署の刑事さんたちの間で新しい伝説となり、
関係筋だからという連絡を受けた警視庁の誰かさんたちが
これで今年の幕を引くのかと頭痛を覚えたいつもの下りは
皆様のご想像にお任せするということで。
クリスマスの満月からこっち
少し欠け始めてたお月さまだけが微笑ましげに笑ってござった、
とある凍夜のお話でした。




   〜Fine〜  15.12.30


 *お月さまくらいですって、笑ってられるのは。(苦笑)
  お察しの通り、討ち入りの日にUPしたかったネタです。
  相変わらずの大暴れ、
  夜回りにこんなカッコする余裕もたっぷりの困ったお嬢さんたちで、
  来年も思いやられます。(笑)

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